削りたての香りはデリケート


お吸い物のいい香りの正体は?

職人が丁寧に作ったお吸い物はなんともいえないいい香りがぷーんとして、自然なおいしさに私たちの心は安らぎを覚えます。このいい香りの立役者はなんといっても鰹節です。鰹節の香りは様々な香り成分から成り立っていますが、その数は、いったいいくつくらいだと思いますか?なんと数百もの成分が関わっているといわれています。

鰹節の香りのできるまで

実は、生の鰹の肉に含まれる成分はそこまで複雑ではありません。では、どうして鰹節にはそんなにたくさんの種類の香り成分が含まれているのでしょうか?秘密は焙乾工程にあります。焙乾工程で成分同士が何段階にもわたって複雑に反応し、さらに煙りに含まれる成分もその反応に加わることで、まるで、夜空に浮かぶ星のように無数の香り成分が出来上がるのです。

鰹節は先人が作り上げた精巧な香りのカプセル?

できあがってくる様々な香り成分は安定しているものから不安定なものまでさまざまです。鰹節は焙乾を繰り返すことで極限まで水分が低くなりガラスのようにカチカチになりますが、まさに、そのおかげで不安定な香り成分は塊の中に閉じ込められて安定化するのです。昔の人が作り上げた技術の完成度には本当に驚くばかりです。

鰹節は直前に削れ

でも、鰹節を削ったり粉末にしたりすると状況は一変します。例えば不安定な香り成分の一つに硫化水素という、鰹の好ましい肉的な香りと深く関わっている物質があります。(じつは、この成分は淹れたてのコーヒーや炊きたてのご飯の香りにも関わっています。)硫化水素は沸点がマイナス61℃と低く、とても揮発しやすいので、一度削ると表面から徐々に飛んで行ってしまいます。変化は香りがとぶだけではありません。鰹節にはDHAなどの魚油も含まれます。これも鰹節が塊の時は安定していますが、削ると酸素に触れて酸化が始まり、不快な生臭み成分を作り出します。そのため、こだわる職人の世界では昔から鰹節は使う直前に削れといわれてきたのです。

一番だしのひきかた

鰹節のいい香りを引き出すための工夫は削るタイミングだけではありません。香り高い一番だしのひき方については、節を入れたら間も無く火を消すやりかたもあれば70℃くらいで引くやりかたもあります。でも、ぐつぐつ煮出すことは決してしません。それは、ぐつぐつと煮出すとせっかくの香りが水蒸気と一緒に一気にとんでいってしまうからです。また、節を入れる前によく沸騰させ、水に溶けている酸素を追い出すことにこだわる方もいます。高温で酸素に触れるとたとえ水中であっても一気に酸化が進んでしまうからです。

削りたての香りはデリケート

以上に述べた通り、鰹節の削りたての香りはとってもデリケートです。職人のだしが放つ、あの、なんともいえないいいだしの香りは、鰹節のデリケートな香りが損なわれないよう一つ一つの段取りを細心の注意を払いながら行うことで出来上がってくるのです。


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